谷川俊太郎『六十二のソネット』「62 (世界が私を愛してくれるので)」

世界が私を愛してくれるので
(むごい仕方でまた時に
やさしい仕方で)
私はいつまでも孤りでいられる


私に始めてひとりのひとが与えられた時にも
私はただ世界の物音ばかりを聴いていた
私には単純な悲しみと喜びだけが明らかだ
私はいつも世界のものだから


空に樹にひとに
私は自らを投げかける
やがて世界の豊かさそのものとなるために


……私はひとを呼ぶ
すると世界がふり向く
そして私がいなくなる