クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

なにを考えてるのよ返事していったいどこにいるのよ?と彼女がいったのでおれがふたたび手をその上において、ここにいる、すると彼女、ちがうわ、そこでおれ、おれがここにいると思わないのか? おれは笑おうとしたが彼女はちがうわあたしといっしょになんかいないわといったせいぜいあなたにとってはあたしは兵隊向きの慰安婦よ兵舎の壁のこぼれ落ちた漆喰にチョークとか釘の先で落書きしてあるあれみたいななにかよ、楕円形をふたつに割ってまわりにお日さまみたいに光の矢をつけたというか目を縦にして閉じてそれを睫毛がとりかこんでいる顔さえない……