谷川俊太郎『六十二のソネット』「45 (風が強いと)」

風が強いと
地球は誰かの凧のようだ
昼がまだ真盛りの間から
人は夜がもうそこにいるのに気づいている


風は言葉をもたないので
ただいらいらと走りまわる
私は他処(よそ)の星の風を想う
かれらはお互いに友達になれるかどうかと


地球に夜があり昼がある
そのあいだに他の星たちは何をしているのだろう
黙ってひろがっていることにどんな仕方で堪えているのか


昼には青空が噓をつく
夜がほんとうのことを呟く間私たちは眠っている
朝になるとみんな夢をみたという