谷川俊太郎『六十二のソネット』「37 (私は私の中へ帰ってゆく)」

私は私の中へ帰ってゆく
誰もいない
何処から来たのか?
私の生まれは限りない


私は光のように遍在したい
だがそれは不遜なねがいなのだ
私の愛はいつも歌のように捨てられる
小さな風になることさえかなわずに


生き続けていると
やがて愛に気づく
郷愁のように送り所のない愛に……


人はそれを費(つか)ってしまわねばならない
歌にして 汗にして
あるいはもっと違った形の愛にして