2015-11-28から1日間の記事一覧

谷川俊太郎『六十二のソネット』「37 (私は私の中へ帰ってゆく)」

私は私の中へ帰ってゆく 誰もいない 何処から来たのか? 私の生まれは限りない 私は光のように遍在したい だがそれは不遜なねがいなのだ 私の愛はいつも歌のように捨てられる 小さな風になることさえかなわずに 生き続けていると やがて愛に気づく 郷愁のよ…

クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

(つまり想像力を手段として、つまり彼らの記憶のなかに見いだせるかぎりのあらゆる、見たり聞いたり読んだりした知識をかきあつめ、組み合わせて――そこのぬれて微光をはなつレールや黒い貨車やずぶぬれの黒い松の木の影などにかこまれ、ザクセン地方の冬の…

クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

そこでジョルジュ「どうせ死ぬんだったらせめてもうすこし待てよ。犬死にならないようにな。せめて勲章でももらえるといいな」、そこでブルム「凍死するのと、勲章をもらって死ぬのと、どう違うっていうんだ?」、そこでジョルジュ「考えるからちょっと待て…

クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

「もっとも」と、彼は考えるのだった「もしかしたらもう明日になっているのかもしれず、それどころかおれたちがここを通ってからおれの気がつかないうちに何日も何日もたってしまっているのかもしれない。彼にいたってはなおさらそんなことには気がつくまい…

クロード・シモン『フランドルへの道』(平岡篤頼 訳)

「だがこれとおなじものをどこかで見たことがあるぞ。たしかに見おぼえがある。だがいつかなあ? そもそもどこだったろう?……」