谷川俊太郎『六十二のソネット』「11 沈黙」

沈黙が名づけ
しかし心がすべてを迎えてなおも満たぬ時
私は知られぬことを畏れ――
ふとおびえた


失われた声の後にどんな言葉があるだろう
かなしみの先にどんな心が
生きることと死ぬことの間にどんな健康が
私は神――と呟きかけてそれをやめた


常に私が喋らねばならぬ
私について世界について
無智なるものと知りながら


もはや声なくもはや言葉なく
呟きも歌もしわぶきもなく しかし
私が――すべてを喋らねばならぬ