宮沢章夫「ただ面白いからそうしている・手相・病人は演技する」

 私だけの話なのかもしれないし、もちろんほんとうに苦しんでいる病気の人がいることを承知で書こうと思う。
「病人は演技する」
 病気を患う。まわりから、「お大事に」などと励まされ、心配や同情などされると、「俺は病気なんだ。ちゃんと病人らしくしてなきゃまずいんだ」と奇妙な意識に捉えられることになり、それは、軽い病の者にとっては深刻な状況である。そこに演技が発生する。いったい病人らしさとはなんだろう。繰り返すようだが、ほんとうに病気で苦しむ者らにとって演技はむしろ、健康そうにふるまうことになり、つまり、演技とは、「自分にないもの」を強引に身につけようとするテクニックだ。