太宰治「書簡」(菊田義孝あて)

短編小説は、もっとシャッキリした鮮明な感覚の一線を引くことが大事です。
 君の言葉を借りて言えば、それこそ読者への「奉仕」です。隣人への捨身です。
 君は少しも「奉仕」していないし、捨てていない。「美しさ」とは、どんなものだか考えてみてください。君は昔の芸術品に対し、どんなところに最も心をひかれたか、それを思い出してください。
(中略)
会話体なら、その会話の主の肉体が感じられるようでなければなりません。
(中略)
どうして君には、こんなへんな教訓癖があるのだろう。かえって濁りを感じさせられます。