清水正『ビートたけしの終焉――神になりそこねたヒーロー』

 タイトルSonatineは中のonとtiと最後のeが消えてSanとなり、次いでSとnが消えてaとなる。これは面白い。Sanは太陽(Sun)ではなく、息子(Son)でもない。aはアルハベットの最初であるから原初的なものを意味する。
 村川は真の意味での英雄・神としての太陽になることはできなかったし、父を崇拝し父の立場を受け継ぐ存在にもなれなかった。村川はオイディプス的野望の側面から見ても父的存在を殺せただけで母なるものとの合体に成功することはできなかった。村川は不完全な〈太陽〉であり不完全な〈息子〉としてのSan的存在にとどまっていた。しかし、このSan的存在・村川が何よりも原初的なるもの・根源的なるものaを目指していたことも確かなのである。
 このように考えると『ソナチネ』はタイトル文字の変容場面において、作品の隠された意図・意味を明確に語っていたことになる。