山崎正和『柔らかい個人主義の誕生――消費社会の美学』

 さて、人間の欲望のうちで、もっとも基本的なものは物質的欲望であらうが、まづこれを観察しただけでも、ただちに、欲望が無限だといふ先入見が誤りであることが理解できる。人間にとって最大の不幸は、もちろん、この物質的欲望さへ満足されないことであるが、そのつぎの不幸は、欲望が無限であることではなくて、それがあまりにも簡単に満足されてしまふことである。