蓮實重彦「〈美〉について 谷崎潤一郎『疎開日記』から」(小林康夫/船曳建夫 編『知のモラル』所収)

作品の創造とは,まさしく知性の行使にほかならず,感性のほしいままな飛躍などではありえないからです.愚鈍さとは,「独自性」に徹することで「一般性」=「特殊性」という秩序を超えて,「普遍性」としてある真の知性に出会うための試練にほかなりません.知性本来の資質とは,何よりもまず,変化を察知し,みずからも変化することにつきているはずであり,知性が動揺し,逡巡し,戸惑い,ときにまどろみへと落ち込んでゆくかにみえるのは,そのためにほかなりません.