蓮實重彦「〈美〉について 谷崎潤一郎『疎開日記』から」(小林康夫/船曳建夫 編『知のモラル』所収)

20世紀は,1914年に欧州で始まった第1次世界大戦から,つい最近の湾岸戦争や旧ユーゴスラビアの内戦にいたるまで,人類が戦争の野蛮さや悲惨さをいやというほど思い知らされた時代です.にもかかわらず,20世紀の真の不幸は,人類が戦争の「醜さ」を知った時代であると同時に,その「美しさ」をも知ってしまった時代だという事実のうちにひそんでいるのです.