吉本隆明[聞き手]糸井重里『悪人正機』

僕なんかでも銀行からお金を借りて、ローンで返すっていうことがあるわけだけど、それを一五年近くもやってて、つくづく感じたことは、結局、こういうふうに月々幾ら返すんだとか、返すのきついなあとか、そういうふうにお金っていうのを考えている限りは、絶対に金持ちになれねえんだってことですね。
 金持ちになれねえんだって言うと、ちょっと語弊があるかもしれないけど、要するに制度としてのお金の使い方っていうのはできないんだっていうことを、つくづく感じたんですね。借金してると何だか気持ちが悪くて仕方がないから、できるだけ早く払っちゃいたいとかっていう発想をしてたら、全然ダメなんです。
 金というものをわかってない。でも、雇われ経営者じゃなくて、本当にお金を出してる資本家っていうのを考えてみればわかるんだけど、お金は全部借りられるものだって、彼らは思ってるでしょう。で、借りた金も全部、自分の財産だっていうか、そういう発想ができなきゃ、お金は集まらないし、本当の資本家にはなれないんですよ。
 そもそも、返すとか借りてるとかってことが気になっているようじゃ、お金についての才能がないと思ったほうがいいでしょうね。本当にお金の才能のある人は、赤字でもちゃんと生活してるし、会社が赤字でも、そんなことはどうでもいいんだっていうか、会社なんて赤字でもやるもんだって思ってる。やっぱり赤字っていうのはできるだけ減らさなきゃと思って、ムダな電気は消せとか、水道は出しっぱなしにするなとか、そういうこと言ってるような経営者は落第ですよ(笑)。
 だから、借金の返済を脅されてるみたいに催促されて、それでほとほと困って、で、まあ、いちばん極端なのは、にっちもさっちもいかないって自殺しちゃうとかね。そういうのはやっぱりお金についてはよくわからなかった人でね。
 そんなことは何でもないんだみたいに平然として、脅されたら、どうにでもしてくれみたいな感じで対応できるようにならない限りは、本当のお金持ちというか、制度的なお金のチャンピオンにはなれないんだっていう気がしますね。
 脅かしに来るっていうこともまた、自分に関係を求めてくるんだって、そういうふうに思えなければダメだっていうか、典型的な資本家っていうのは、それができた人だと思うんですね。