吉本隆明[聞き手]糸井重里『悪人正機』

 だから、名前っていうのを人にわからせたいという願望というか、もっと深層でいえば本能って言いましょうかね。それはかなり……宗教的に根強いものじゃないかなと思うんです。
 だから、偶然性の要素が強いほど、名前の呪術性というか、宗教性は大きいですよね。学問で研究して何か褒美をもらったとか、文学の方面で賞をもらって名前が知られるようになったという、名前が知られる理由がわかりきっているものよりも、街を歩いていたら、どこかのプロデューサーにスカウトされて、芸能の分野で名前が知られるようになってスターになったっていう人のほうが偶然性が強いわけで、すなわち宗教性も高いですよね。
 だから、若い人たちの有名になりたいっていうのは、宝くじに対する気持ちみたいなものなんです。誰でも「当たんねえかなあ」とか思う心は抱くもんだっていうか、なくならないもんだっていう、そういうのと同じなんじゃないですかね、やっぱり。