夏目房之助『マンガはなぜ面白いのか その表現と文法』(NHK人間大学 1996 7月〜9月期)

 ページをめくるという、我々にとって当り前になっているマンガの読みかたは、じつは本という媒体に物理的に決められたものです。新聞マンガなどは、ページをめくるという読みかたをもっていません。でも、現在の日本のマンガではページをめくるという読みかたを前提にして、その効果を考えてコマを構成し、話の起伏をつくってゆくのが当り前になっています。たとえば、ページのおしまいのあたりで読者に「これからどうなるんだろう」という期待をもたせ、ページをめくらせて意外な展開を与える、というようにです。
 こうしたことを表現の上で計算してゆくというのは、物理的にページ数がある程度多くて、長い物語を語れるようになってから発達したもので、歴史的にはそう昔のことではありません。日本では戦後急速にマンガのページ数が増えて、格段に複雑な計算が成り立つようになりました。いま我々が読む週刊誌、月刊誌、単行本というマンガ媒体の発達もあって初めて表現の高度化が可能だったわけです。