津覇実明「日本国憲法のために 沖縄をテクストとして」(「現代思想1999年2月号 特集 部落民とは誰か」所収)

 「天皇」の名義で振り出した「日本国憲法」は国内の日本国民に流通するが、その実効性は実は添付された「安保条約」によって保証されることになる。勿論その裏書きはアメリカ合衆国である。しかし、「安保条約」の担保提供は沖縄人を中心としてなされている。将来にわたって債務は負担するが権利の行使はできない。契約の不当性を訴える当事者適格性さえ存在しない。すなわち、ここには、「安保」を沖縄に押しつける際の根拠となった沖縄人=日本人という構図が、押しつけられたとたん沖縄人≠日本人というパラドクスを発生させる。そもそも沖縄人には適用されない基本的人権の完全型が、「日本国民」に吸収された沖縄人の瑕疵ある基本的人権に著しく変型されてはじめて本土人=日本人の基本的人権の完全型が実現される。日本人のなりそこないは、当然人権も「なりそこねた状態」=不完全でなければならないのだろう。したがって、こう言い換えてもよい。沖縄は領土上は完全に「日本」であるが、ヒトとしては「日本国民」と同等ではなかったと。