黒崎政男『カント『純粋理性批判』入門』

純粋理性批判』によれば、真理は最初から誤謬や仮象と峻別されてア・プリオリに与えられているようなものではなく、実験や経験の検証を重ねる運動のうちからえられてくるものである。このような真理のダイナミックな性格は、感性と悟性とをともに人間認識の不可欠な契機とし、真理の成立根拠を人間自身のうちに置くことによって、はじめて確立され、基礎づけられたものである。そして、この真理獲得の運動を根底からささえているのが、カントの〈超越論的真理〉ということなのである。
 真理は、ア・プリオリな形で先取的に枚挙されたり、体系性の「高い塔のうち」に存するのではなく、その存する場所は、「経験という実りゆたかな低地(Bathos)(ともに『プロレゴメナ』付録)なのである。