黒崎政男『カント『純粋理性批判』入門』

 つまり、時間・空間という直観も、カテゴリーという概念(例えば、因果関係)もすべては、〈人間〉の認識に特有なものである。つまり、時空も因果関係も、人間の認識の都合なのであって、世界そのものの成立にそれらが関わっているのではなく、人間認識の成立にそれらが関わっているのである。
 きわめてくどいが、もう一度だけ繰りかえしておく。時間・空間、そして因果関係などは(通常は)、人間の存在に関わらず、世界そのものが成立するための条件だと考えられている。人間がいなくとも、時間・空間はあるし、因果関係も、世界そのものの側に属する法則である、と考えられている。
 カントは、否! と言う。そうではないのだ。それらは、人間が世界を認識するための〈主観的〉条件であって、我々の認識を離れてはそれらは無なのである。しかも、それだけではない。想定される知的存在者、例えば天使や神も、彼らが認識するために、時間・空間や因果関係などを使用することはおそらくないだろう、というのがカントの考えである。
 時間・空間や因果関係などのカテゴリーは、人間の認識の成立の条件、つまり、〈現象〉の成立の条件なのであって、物そのものの成立の条件では決してないのである。

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