伊藤俊樹「傾聴」(澤田瑞也、𠮷田圭吾 編『キーワードで学ぶカウンセリング――面接のツボ――』所収)

初心者のカウンセラーにはよくあることだが、クライエントが自分自身に否定的になったときに、クライエントをフォローしようと思って「でも、そんなことはないよ」と、言ってしまうのである。しかし、そこでフォローせずに聴いていくと、たとえば自分の父親が、とても要求が高く、テストで一〇〇点をとっても当たり前、九〇点だったら叱られていた、という話が出て、自分と父親との関係に話が及んでいくかもしれない。せっかく話が深まるチャンスであっても、カウンセラーが傾聴できず、「でも……」とフォローしてしまうと、クライエントは次に進めなくなってしまうのである。
 また、傾聴という姿勢は、クライエントが抱えている問題が重たくなるほど、難しくなる。問題が重たくなるほど、聴いているカウンセラーもしんどくなってくるからである。そのしんどさに耐える強さが、カウンセラーには必要とされる。ときにそのしんどさは、はっきりと意識されないこともある。そういう場合は、クライエントの話がしんどくなりかけると、無意識のうちに話をそらすような質問をしたり、自分の意見を述べたりして、クライエントが本当に話したい話から逃げてしまうこともある。