渡辺利夫『神経症の時代――わが内なる森田正馬』

 神経質な人びとが自己をとかく内省的、批判的にみつめるのは、彼らが向上発展欲において強いからである。向上発展を強く求めるがゆえに、それを妨げる可能性のある身体的、精神的な病覚に関心をもたざるをえず、実際には異常ではないにもかかわらず、これに主観的にとらわれ、このとらわれが心に膠着してしまうのである。
 したがって、この「主観的虚構性」のからくりから症者を解放してやるならば、彼らは自己の向上発展を求めるその真摯のゆえに、また粘り強い精神力のゆえに、他の性格類型の人びとよりもいっそう優れた人間活動の発揚をみせうるはずである。神経症者のもつこうした肯定的な一面に光を当てたところが、正馬の症者観の大きな特徴である。