ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

青春は、彼女にとって、過渡的な年代ではなかった。現代の娘にとって、青春というものは、人間の生涯に一回だけ現われる真実の本来的な時期だったのだ。成熟などというものを彼女は侮蔑していたイヤ彼女にとっては未成熟が成熟にほかならなかった。顎ひげや、口ひげなど認められない、乳母にしろ母親にしろ子供をだいた女など認められないというわけで――彼女の魔術的な力の源泉がここにあった。彼女の青春はいかなる理想をも必要とはしないのだ。なぜなら、それ自身がすでに理想だったからだ。おれが――理想の青春によって悩まされ苦しめられているおれが、こうした理想の青春を燃えるように渇望したとしてもふしぎはなかろう。

   ※太字は出典では傍点