ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

イヤ、それにしても、からかうということは、敬意の表現以外のなにものでもなかった。なぜならば、人を嘲る心の底には、人に気に入られたいという有害無益な欲望がひそんでいるのだから。もしおれが嘲弄をこととしたのなら、つまるところ、それはおれが嘲弄のくじゃくの羽でただおのれの身を飾り立てたかったからにすぎなかろう。そして、言うならば、これはおれが人に受け入れられなかったと白状するのも同じことだ。こうして、いま、嘲弄の矢はそれを放った自分に向けて返ってきて、おれはますます胸の悪くなるような恐ろしいつらを作らされるはめとなったのだ。

   ※太字は出典では傍点