ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

「聞いたか?」ミェントゥスが言った。「おれたちゃ純潔だとさ! 純潔だと、こんちきしょう。あほう、くそくらえ! あいつはおれたちが純潔だと思いこんでるんだ。無邪気な天使だとみとめてるんだ。あいも変わらず純潔で無邪気だとよ、このおれたちが! 天真爛漫だとよ!」ミェントゥスはじだんだ踏んだが、どうふんばってみても、純潔を意味するこの言葉――かれをしばって自由をうばい、息の根をとめ、なにかしら毒気まで抜いて子供っぽくさせてしまうこの言葉の輪から抜けだすことができなかった。