ゴンブローヴィッチ『フェルディドゥルケ』(米川和夫 訳)

 やりきれないばかりか、まったく、そら恐ろしいような状況。というのも、この未成熟、青くささほど、大人たちの嫌悪と憎悪の念を呼び起こすものはないからだ。どんなはげしい徹底した破壊にしろ、成熟という枠のなかで行なわれさえすれば、そんなものなどかれらはいともやすやすと耐えしのぶ。ある成熟したイデーをべつの成熟したイデーによって征服しようとする革命家――たとえば、共和制のために君主国をうちたおすとか、また反対に、君主国のために共和制をたたきつぶすとかいうようなそんな革命家など、大人たちには恐ろしくもなんともないのだ。もちろん、成熟した高邁なもうけ仕事が繁盛をきわめるのは喜んで眺めるというわけだが、しかし、もしだれかのうちに未成熟さを、青二才の洟ったれをかぎつけようものなら、たちまちその相手にとびかかって、あひるをなぶる白鳥のように、くちばしでさんざんに突きまわすことだろう――あてこすりや、皮肉や、嘲笑でたたきのめしてしまうことだろう。そして、大人たちのとうに否認してしまった世界からまいこんで来たこの風来坊がかれらの巣をけがすのをけっして許しはしないのだ。

   ※太字は出典では傍点