パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

こうしてわたしはこの村を、自分の生まれた郷里(くに)でもないのに、ながいあいだ世界そのもののように思っていた。世界というものをほんとうにこの目で見て、世界は無数の小さな村が集まってできているのだと知った今でも、子供だったそのころのこんな印象を間違いだとしなければならないのかどうか、わたしにはわからない。海や陸地を旅行してまわるのも、わたしたち少年が近在の村の祭をのぞいてまわり、踊ったり、酒を飲んだり、喧嘩したりして、傷ついた拳に小旗をもって帰って来たのと、どれほど違いがあるだろう。