パヴェーゼ『月とかがり火』(米川良夫 訳)

しかし周囲の木立ちや土地の様子は変っていた。榛(はしばみ)の林は跡かたもなく消え失せて、収穫のすんだもろこし畠になっていた。家畜小屋からは牛の鳴き声が聞えていたし、夕暮れの冷たい空気に混って堆肥(つみごえ)の匂いが漂っていた。この小屋に住んでいる人は、もうわたしたちみたいにみじめな暮しをしていないのだ。わたしはいつも何かしらこんなようなことを――ことによったら、この小屋が壊れてなくなっているのではないかということさえも――期待するように想像して来ていた。いくたびとなく、この橋の上でこうして手すりにもたれながら自問するわたしの姿を思い描いてみたのものだった――こんな洞穴(ほらあな)みたいなところに、よくもまあ何年も暮して来れたと。