庄野潤三「絵合せ」

 炬燵で宿題をしている良二が、うつむいている顔を上げて、何か考えようとすると、額に不揃いな皺が寄る。
 小学二年の時に(いまは中学二年だが)、学校の廊下を走っていて、友達とぶつかって大きなこぶが額に出来た。友達の方は前歯がぐらぐらになった。
 どうしてそんなに勢いよくぶつかったんだろうと思うが、良二の話によると、
 「ぼくが走って来たら、向うから豊田君がかけて来て、それでぶつかった」
というのであった。
 よけられなかったのかと聞くと――あとでそんなことを聞くのも間が抜けているが――そこは狭いところであったという。
 どうしてまた、よけられないくらいの速さでそんな狭いところを走ったのかと聞くと、便所へ行くところであったという。