セリーヌ『なしくずしの死』(滝田文彦 訳)

 手紙の中の悲しいことは、もう二十年近く、みんな彼女のところで停っていた。それがごく最近の死の臭(にお)い、途方もなく酸っぱい味にまじってまだそこにある…… 悲しみが孵化したのだ…… そこにある…… さまよっている…… そいつはわれわれを知り、われわれは今じゃあそいつを知っている。それはもう永久に立ち去らないだろう。門番室の火を消さねば。誰に手紙を書く? もう誰もいない。死者たちのやさしい精神を静かに迎え……そのあとでもっと静かに事物に語りかけるための人間は…… 元気を出せ、もうひとりぼっちなんだ!