マルキ・ド・サド『悪徳の栄え』(澁澤龍彦 訳)

「羞恥心なんて、根も葉もない感情です。それはただ風俗や教育の賜物であって、いわゆる習慣というものの一形態にすぎないのですからね。裸の男や女を創り出した自然が、同時に裸になることの嫌悪や羞恥を人間に与えようはずがないじゃありませんか。もし人間がつねに自然の原理に従っていたのだったら、人間は羞恥心などというものをけっして知らなかったでしょう。つまりこの宿命的な真理が証明しているとおり、この世には、自然の法則を完全に忘れ去ることを以て初めて成立つある種の美徳というものがあるのね。こんなふうに、キリスト教道徳を構成しているすべての原理を吟味してみるというと、実に驚くべき人間性の歪曲が見つかりますよ!」