フォークナー『響きと怒り』(高橋正雄 訳)

「さあ、みんな静かにするだよ」とディルシーがいった。「今夜は静かにしなきゃあなんねえだよ」
「どうして今夜は静かにしなきゃあなんないの」とキャディが小声でいった。
「そんなこと気にしなくってもいいだよ」とディルシーがいった。「神様のおぼしめしのある時がくれば、わかるだよ」彼女がわたしの茶碗を持ってきた。それから湯気がたちのぼり、わたしの頰をくすぐった。「ここへきてみてやるだ、ヴァーシュ」とディルシーがいった。
「神様のおぼしめしのある時っていつなの、ディルシー」とキャディがいった。
「日曜日さ」とクェンティンがいった。「お前はなんにも知らないんだなあ」