明恵『明恵上人集』

秋田城介(あきたのじょうのすけ)入道覚知、遁世して梅〈ママ〉尾に栖(す)みける比(ころ)、自ら庭の薺(なずな)を摘みて味噌水(みそうず)と云ふ物を結構して上人にまゐらせたりしに、一口含み給ひて、暫し左右を顧みて、傍なる遣戸の縁(ふち)に積りたるほこりを取り入れて食し給ひけり。大蓮房座席に候ひけるが、不審げにつく/″\と守り奉りければ、「余りに気味の能く候程に」とぞ仰せられける。