エドガー・アラン・ポー『アッシャア家の没落』(谷崎精二 訳)

雲が押しかかるように低く空にかかった、もの憂い、暗い、そして静まりかえった秋の日の終日、私は馬に乗ってただ一人、不思議なほどうら淋しい地方を通り過ぎていった。そして夕暮の影が迫ってきたころ、とうとう陰鬱なアッシャア家の見えるところまでやってきた。どういうわけだか知らないが、その建物をひと目見た刹那、耐えがたい憂鬱の情が私の心を襲ってきた。じっさい耐えがたかった。