ヘミングウェイ『日はまた昇る』(大久保康雄 訳)

闘牛場の中央で、ロメロは牛の正面で半身になり、ムレータのあいだから剣をひきだし、爪先で立って、長い刃に沿って狙いをつけた。ロメロが攻めると牛も襲いかかってきた。ロメロの左手にあるムレータが、相手の目をくらますために牛の鼻先へたれさがると、左肩がぐいと牛の角のあいだに傾いて、剣が牛の肩口に突き刺さった。一瞬、彼と牛とは一体となった。