ユゴー『レ・ミゼラブル』(豊島与志雄 訳)

人間の歴史は下水溝渠の歴史に反映している。死体投棄の溝渠はローマの歴史を語っていた。パリーの下水道は古い恐るべきものであった。それは墳墓でもあり、避難所でもあった。罪悪、知力、社会の抗議、信仰の自由、思想、窃盗、人間の法律が追跡するまたは追跡したすべてのものは、その穴の中に身を隠していた。十四世紀の木槌(きづち)暴徒、十五世紀の外套盗賊、十六世紀のユーグノー派、十七世紀のモラン幻覚派、十八世紀の火傷強盗、などは皆そこに身を隠していた。百年前には、夜中短剣がそこから現われてきて人を刺し、また掏摸は身が危うくなるとそこに潜み込んだ。森に洞穴のあるごとく、パリーには下水道があった。