高見順「描写のうしろに寝てゐられない」

描写は、――大きなことを言うようだが、近代の科学文明が文学のなかに齎らした光明である。文学のなかに点された電燈みたいなもので、今更、電燈を否定できないし、ここまできて否定したら、もともなくすることになるだろう。私の疑いは、描写の前に約束された
    客観的共感性への不信 
 のような所から出ているのである。

   ※斜体は出典では傍点