山田風太郎『戦中派虫けら日記』

 大都会の空は大きく、風は冷やかである。天涯孤独の自分、しかもいかに泣言をならべてみても、絶対それは無益なことを骨身に徹して知っている自分。――その自分を眺めるとき、笑いはもとより湧かぬ。涙ももとより湧かぬ。ただ――沈黙するばかりである。