春日武彦『ロマンティックな狂気は存在するか』

 狂気によって産出される幻覚や妄想の内容が、人々が通常考えているよりは遥かに退屈で硬直したものだという事実があるいっぽう、文学青年だとか芸術家を任じている連中が狂気へ過大な可能性や評価を「片思い」しているという事実もある。狂気は、想像力が一切の制約から解き放たれた際の実験劇場、常識や先入観を排した精神の解放区、人生そのものに対するアバンギャルドな態度、そうした一切合切を象徴しているように見えるのであろう。その手の思い込みは、子供の心は純粋無垢であると信じている阿呆と五十歩百歩であることを自覚すべきである。