春日武彦『ロマンティックな狂気は存在するか』

 私は「狂人はあまりにたやすく発見し断定する」といったフレーズをこの章で強調しておきたかったのであった。それは「天才とキチガイとは紙一重」といった俗説とも関わってくるであろう。天才は重大な発明発見を直観的に、凡人から見ればきわめて容易に成し遂げる。狂人は、これまた万物の真理や諸事の法則、不可解な出来事の真相や「もどかしさ」の原因、そうしたものを瞬時のうちに悟り、理解し、単純明快な因果関係へ還元してみせる。天才は遥か彼方から「真実」を摑み取ってくるが、狂人は手近なものを手にとってそれをさも大切そうに「真実」であると主張する。狂気の産物は、それゆえに陳腐であることがほとんどで、しかしたまには偶然の悪戯によって、いかにもまことしやかで思わせぶりな「真実」が登場することもある。