ドナルド・リチー『小津安二郎の美学――映画のなかの日本』(山本喜久男 訳)

つまり、日本の家そのものが一種の舞台なのである。日本の伝統的な家は、地面から離して建てられる。多くの壁は開閉のできる窓兼用の戸になっており、天気がよいとその戸が開かれて、まさに舞台のような空間があらわれる。家のなかにも、床の間という小さな舞台があり、四季の花や掛軸が飾られている。部屋の戸が開けられると、そこにほかの部屋の見通し景(ヴィスタ)があらわれる。そして客は、この展示の一部としてみなされるように、床の間を背にして座る。戸はいくぶん儀式ばって、左右にすべらされて開閉され、そして廊下によって、その〝セット〟から次の〝セット〟へとつながっている。かつてポール・クローデルは、日本の家のなかにいると、書割りに囲まれた舞台裏にいるような気がすると述べたが、彼はごく当たりまえのことに気づいたのである。