アウエルバッハ『ミメーシス』(篠田一士・川村二郎 訳)

というのは、人間に恐ろしい行為をする可能性があるならば、恐ろしい行為はいつもそれとは正反対のものを生み出しているわけで、つまり、残虐な事件の起きる時代には、人間の魂の雄々しい生命力もまた発揮されているということも――すなわち、愛情、犠牲、信念のための英雄的行動、清らかな存在の可能性への絶えざる探求といった事柄もまた、われわれがたいてい恐怖時代に目にするものであることも――また真実だからである。