吉本隆明「蕪村詩のイデオロギイ」

すぐれた詩人の詩意識は、かならずその詩人の現実意識を象徴せずにはおさまらない、というのは詩のもっているもっとも基本的な宿命的な性格であって、この事実は、社会的事件をえがけば、自己の現実把握のでたらめをごまかせるとでもおもっているオプティミストや、超現実と情緒とをうまく調合すれば、子供だましのような象徴詩が、たちまち前衛詩にでもなるとおもっている文学青年が、いかに足搔いてもどうすることもできないのである。詩意識が変革されるためには、かならず現実意識が変革されなければならぬ。蕪村の詩を、中世から近世にかけての個性的詩人、たとえば、芭蕉西行の詩と、もっともへだてているのは、おそらくは、この点であった。