山川菊栄『武家の女性』

 汽車や飛行機、ラジオや新聞に慣れた今日、そういうもののなかった時代の人はどんなに不便だったろうと考えますが、そういうものを知らなかった時代の人は、格別不便とも思わず、その状態に満足していたと同様に、道徳上の問題も同じことで、道徳観念の違う今日の人から見て、甚だけしからん、甚だ不幸なことばかりだったように見えるその時代にも、その中に生れ、その中に死に、それ以外の状態を知らなかった人々にとっては、必ずしも不幸とは限らなかったのであります。