『アベラールとエロイーズ』(畠中尚志 訳)

けれども私は、他人にではなく、あなた御自身に慰められたいのです。あなたが悲しみを惹き起した唯一の方なら、慰めを与える唯一の方もあなたでなくてはなりません。事実、あなたは私を悲しませ、私を喜ばせ、私を慰めることのできるたった一人の方なのです。それにあなただけがそれを私になさる責任を負っていらっしゃるのです。殊に私は、あなたの御命令なら何でも盲目的に果して参ったのですから。あなたの御命令のためなら、私自信を滅ぼすことさえ厭わなかったのです。どんな点でもあなたに抗(さか)らうことのできない私でございました。