福永武彦「細い肩(挿話)」

「プラットフォームで、僕は彼女におめでとうと言った。彼女は困ったような顔をしていたが、やがて、お願いがあるのよ、と言った。僕が、何だい? となにげなく訊くと、あたしの肩を両手で揺ぶってみて頂戴、と言うじゃないか。僕はびっくりしたけど、言われた通り、両手を彼女の肩に置いて、揺ぶってやったよ。花車(きゃしゃ)な肩だった。そのあとで彼女は、あたしもっと早く、こうして肩を揺ぶってもらえばよかった、と言った。そしたら汽車が来たのだ。