説経節「信徳丸」

若君御覧じて、座敷よりとんで降りさせたまい、するすると走り寄り、「のう父御様、信徳参りて候」と、抱(いだ)きつきてぞ泣きたもう。御(おん)涙のひまよりも、かの鳥箒(とりぼうき)を取り出だし、両眼(がん)におし当て、「善哉(ぜんざい)なれ平癒(へいゆう)」と、三度撫でさせたまえば、ひしとつぶれし両眼、明らかになりしかば、御喜びはかぎりなく、かかるめでたき折から、こなたへと招じ、御台(みだい)乙の二郎に、早く暇(いとま)との御諚(ごじょう)あり。承るとて、御白州(おしらす)に引き出だし、首を切って捨てにける。