夏目漱石『満韓ところどころ』

朝起きるや否や、もう好からうと思つて、腹の近所へ神経を遣つて、探りを入れて見ると、矢ツ張り変だ。何だか自分の胃が朝から自分を裏切らうと工(たく)んでゐる様な不安がある。さて何処が不安だらうと、局所を押へに掛ると、何処も応じない。たゞ曇つた空の様に、鈍痛が薄く一面に広がつてゐる。