アントナン・アルトー「ぼくは生きていた」(全) (篠田一士 訳)

ぼくは生きていた
それ以来ずっと生きていた
ぼくは食べたろうか
いやいや
しかし腹がへるとぼくはからだごと退歩した
だからわが身を食う必要もなかったのだ
だがなにもかもが崩れてしまった
珍奇な手術が行なわれた
ぼくは病人ではなかった
いつもぼくはからだの後方にもどることによって


健康を回復した
ぼくのからだはぼくを見捨てた
ぼくのことをよく知りもしなかったのだ
食べること――それは後方にある筈のものを前方に持ってくることだ


ぼくは眠ったろうか
いやぼくは眠らなかった
食べなくても済むには純潔でなければならぬ


口をあくとこは瘴気に身をゆだねることだ
ところで口なんかないんだ
舌なんかないんだ
歯なんかないんだ
喉頭なんかないんだ
食道なんかないんだ
胃袋なんかないんだ
腹なんかないんだ
肛門なんかないんだ


ぼくは現在のぼくという人間を再興しよう