蘇東坡「江城子(かうじゃうし)」(抄) (近藤光男)

十年 生死 兩ながら茫茫たり
思ひ量らざれど  自ら忘れ難し
千里の孤墳
淒涼を話するに處無し
縱使ひ相逢ふとも 應に識らざるべし
塵は面に滿ち   鬢は霜の如し


じふねん せいし ふたつながらばうばうたり
おもひはからざれど  おのづからわすれがたし
せんりのこふん
せいりゃうをわするにところなし
たとひあひあふとも まさにしらざるべし
ちりはおもにみち   びんはしものごとし


十年 生死 兩茫茫
不思量  自難忘
千里孤墳
無處 話淒涼
縱使 相逢 應不識
塵滿面  霜如鬢


この世とあの世とに遠く別れて、はや十年。思うまいとて忘れられるものではない。千里のかなたにおきざりにされたおくつき、さぞや淋しいこころを語るすべもなくていることだろう。いまもし、わたしに出逢ったとしても、とてもわたしと気づいてはくれまい。それほどに、顔は砂塵にまみれ、鬢(びん)は霜のようになっている。