項羽「垓下の歌(がいかのうた;垓下歌)」(全) (内田泉之助)

力山を拔き、氣は世を蓋ふ。
時利あらず、騅逝かず。
騅の逝かざる、奈何す可き。
虞や虞や、若を奈何せん。


ちからやまをぬき、きはよをおほふ。
ときりあらず、すゐゆかず。
すゐのゆかざる、いかんすべき。
ぐやぐや、なんぢをいかんせん。


力拔山兮 氣蓋世
時不利兮 騅不逝
騅不逝兮 可奈何
虞兮虞兮 奈若何


 わが力は山をも抜くべく、わが意気は一世をおおい包むにも足る。けれども時の運が自分に味方しないのだ。力と頼む愛馬の騅(すい)も、今はもう進むこともできない。ああこの騅の進まぬのをなんとしようぞ。さてまた虞よ虞よ、そなたの身ももはやどうにもならぬ。これが最期の別れであるぞ。