白樂天「香爐峯下、新に山居を卜し、草堂初めて成る。偶東壁に題す。(かうろほうか、あらたにさんきょをぼくし、さうだうはじめてなる。たまたまとうへきにだいす。;香爐峯下新卜山��

日高く睡足りなほ起くるに慵し
小閣 衾を重ねて寒を怕れず。
遺愛寺の鐘は枕を欹てて聽き
香爐峯の雪は簾を撥げて看る。
匡廬はすなはちこれ名を逃るるの地
司馬はすなはち老を送るの官たり。
心泰に身寧ければこれ歸處なり
故郷なんぞひとり長安にのみ在らんや。


ひたかくねむりたりなほおくるにものうし
せうかく きんをかさねてかんをおそれず。
ゐあいじのかねはまくらをそばだててきき
かうろほうのゆきはすだれをかかげてみる。
きゃうろはすなはちこれなをのがるるのち
しばはすなはちらうをおくるのくゎんたり。
こころゆたかにみやすければこれきしょなり
こきゃうなんぞひとりちゃうあんにのみあらんや。
 

日高睡足猶慵起
小閣重衾不怕寒
遺愛寺鐘欹枕聽
香爐峯雪撥簾看
匡廬便是逃名地
司馬仍爲送老官
心泰身寧是歸處
故郷可獨在長安


朝日は高くのぼり睡眠も十分なのに起きるのがめんどうだ。
このへやではふとんを何枚もかけていて寒くもない。
遺愛寺の鐘の音は枕の上のあたまをちょっともたげてきくし
香爐峰の雪もすだれをはねて見るだけだ。
ここ廬山(ろざん)こそは俗世間の評判からのがれる土地だし
司馬の職ももともと隠居に適した役だ。
心が安泰で身体が安全ならそこが安住の地で
故郷は長安にあるとはかぎってない。